事業内容

研究成果報告会

平成29年9月11日、贈呈式に先立ち第9回研究成果報告会が開催されました。今回は昨年に引き続き2分野からの報告となり、まず、自然科学分野から東京大学大学院新領域創成科学研究科杉本宜昭准教授により「1つひとつの原子を計測して操作する」をテーマとした報告を、続いて人文科学分野から早稲田大学文学学術院佐藤尚平准教授により「アラビア半島の国境線」をテーマとした報告が行われました。

杉本先生 佐藤先生
杉本先生 佐藤先生

報告会レポート

報告会では、佐藤自然科学選考委員長の挨拶のあと、渡邉常務理事より杉本准教授、佐藤准教授が紹介された後、お二人から、約1時間半にわたり成果報告及び質疑応答が行われ、最後に岸本人文科学選考委員長の講評が行われました。

佐藤委員長挨拶 岸本委員長講評
佐藤委員長挨拶 岸本委員長講評
報告会風景 質疑応答
報告会風景 質疑応答

杉本先生報告要旨-1つひとつの原子を計測して操作する

 様々な材料やデバイスを原子レベルで評価することが必要とされる時代になっている。そのような背景において、様々な物質の原子を可視化できる原子間力顕微鏡(AFM)が、究極的な分析装置として注目されている。AFMが発明された30年後にあたる2016年、AFMの発明者であるBinnig, Quate, Gerberは2016 Kavli prizeを受賞した。受賞のインタービューで、彼らは単一有機分子の超高解像イメージング、原子間力の精密測定、個々の原子の操作など、目覚ましく発展したAFMの技術についてコメントしている。AFMの原理は、我々が指で物を触って形を認識するのと基本的に同じである。ただし、指よりもはるかに細い針を用いて、観察対象をなぞるので、物体を構成する1つひとつの原子を認識することができる。また、針先端の1つの原子と観察対象の個々の原子との間に働く微弱な原子間力を測定することが本質的である。このような微弱な力は、針が取り付けられた板バネのたわみを通して測定される。単純な原理とは裏腹に、このような力の検出は技術的に難しく、AFMによって1つひとつの原子が観察されるようになったのは1995年になってからである。今ではピコニュートンという精度で原子間力を検出でき、原子を観察するだけではなく、個々の原子を計測したり操作したりできるようになっている。
 報告会では、AFMを用いた様々な単原子分子計測技術について紹介した。(1)まず、AFMによる様々な材料の原子レベル観察、個々の有機分子の炭素骨格の可視化について紹介した。(2)次に、針先端の1つの原子と表面の1つの原子との間に働く1本の化学結合力の測定とそれを応用した単一原子の元素同定法について詳しく述べた。(3)そして、針との間に働く原子間力を精密に制御することによって、表面の1つひとつの原子を操作して、様々なナノ構造体を組み立てる原子操作技術について述べた。最後に、様々な元素から組み立てたナノ構造体に機能を持たせるという展望を述べた。

佐藤先生報告要旨-アラビア半島の国境線

 アラビア半島の地図を眺めていると、直線的な国境線が多いことに気付く。一見すると、欧米列強や石油会社が恣意的に国境線を引いたような印象を受ける。しかし一方で、現地社会にはそれぞれの自然環境と密接に関わる伝統的な慣習があったはずで、こうした社会や自然条件を完全に無視する形で国境を定めるということが本当に可能だったのだろうか。この疑問を出発点として、本研究では、国境と環境との関係に着目した。特に、20 世紀中葉にアラビア半島東部で勃発した国境紛争に注目し、これが現地の水資源管理制度とどのような関係にあったのかを検討することにした。今回の成果報告会では、この研究の概要とこれまでの調査結果を紹介した。
 本研究では、20 世紀中葉にアラビア半島東部で勃発した国境紛争の一方の当事者であったアラブ首長国連邦と、同国に長らく影響を及ぼしたイギリスで調査を行った。さらに、こうした調査を進めていく中、これまで存在すら知られていなかった一次史料がイギリスで発見・公開されるという僥倖にもあった。この新出史料を検討する中で、この研究は新たな展開も見せ、イギリス帝国の解体過程における現地協力者の役割というテーマも開拓することが出来た。
 こうして分かったことについては順次著書と論文で発表してきたが、一方で将来に向けていくつか課題も残った。水資源分配をめぐる伝統については、引き続き調査を続ける。また、イギリスで発見された新出史料の調査も本格化する。
 本研究は、研究対象と分析手法の性質上、多くの海外調査を必要とした。本助成金なくしてこの研究はなしえず、これまでのご支援、ご理解に深く感謝する。

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